「蔵の中・鬼火」(横溝正史)

微妙に異なる2つのバージョン

「蔵の中・鬼火」(横溝正史)角川文庫

「鬼火」
従兄弟どうしである
万蔵と代助の二人は、幼い頃から
激しい敵愾心を持っていた。
それぞれ画家となった二人は、
一人の女・お銀を取り合う。
代助を陥れ、お銀を奪った万蔵は、
しかし、汽車の脱線事故で
二目と見られぬ顔となる…。

これぞ横溝正史初期の
短篇作品の傑作選です。
「鬼火」「蔵の中」「かいやぐら物語」
「貝殻館綺譚」「蠟人」「面影双紙」の
6編が収められています。
学生の頃に読んだときには
わからなかった作品の価値に、
今ようやく気付くことができました。

「蔵の中」
雑誌編集長・磯貝のもとに
持ち込まれた素人原稿。
読むとそこには
誰も知らないはずの
彼の私生活が
まざまざと描かれていた。
書いたのは蕗谷笛二という青年。
その青年は肺を病み、
女性のように
美しい容姿をしているのだという…。

上に掲げた2枚の写真。
どちらも本書なのですが、
違いがわかりますか?
①作者名と出版文庫名の
 枠の位置が異なる、
②書名・作者名の枠の地の緑色が一方は
 グラデーションがかかっている、
③出版社名の枠の地が灰色と白、
④画のトリミングが両者で異なる、

4点において相違があります。
上は平成30年再刊の装幀、
下は昭和50年代後期の装幀です。

「かいやぐら物語」
病を得て
南方の海辺での療養生活を
余儀なくされた「わたし」は、
真夜中の散歩途中で
貝殻を吹く女と出会う。
女は貝殻の吹き方を教えてくれた
青年のことを語り始める。
それは
蜃気楼(かいやぐら)のように
怪しくも儚い物語だった…。

大した違いではないのですが、
横溝ファンにとって、
この杉本一文の装幀画を
鑑賞することこそ
横溝作品を読むことと同等に
重要なことなのです。
平成版の方が構成的にも優れている上、
艶のある紙質のため発色が豊かであり、
美しい仕上がりになっています。

「貝殻館綺譚」
月代を崖の上から
突き落として殺害した美絵は、
岬の監視小屋から少年が
一部始終を見ていたことに気付く。
美絵が寄宿している
貝殻館の中を見たいという
少年の願望を知った美絵は、
それを利用して
少年を死に至らしめる…。

私はこれが欲しくて
この半年間探していました。
本書は出版文庫の70周年記念として、
ある大手書店のみの
限定発売だったのです。
したがってAmazonでも
入手できませんでした。

「蠟人」
青年騎手・今朝治への
芸奴・珊瑚の想いは、
旦那の知るところとなる。
今朝治は無理矢理
残酷な手術を施された上、
放火犯として収監される。
珊瑚はチブスの病により光を失う。
珊瑚は今朝治への思いを
断ち切れず、蔵の中で…。

この新版を、先日
ようやく入手することができました。

横溝シリーズの表紙が新しい印刷で
再刊されたなら、私は
全巻買い直そうとさえ思っています。

「面影双紙」
薬問屋であった「私」の家には、
本物の人骨を使った骨格標本が
よく納入されていた。
あるとき女中のつるに言われて
店の骸骨を見ると、
そこには先年行方不明となった
父の足指の特徴が…。
友人R・Oが語る忌まわしい過去…。

出版社の方々にお願いします。
価値のある書籍を
一部書店での限定販売などに
しないでいただきたいのです。
それを欲しいと願う消費者が
確実に手に取ることができる
世の中であって欲しいと願っています。

(2019.5.5)

※追伸
 本書の表紙には
 この旧版も存在します。
 都合3冊も買ってしまいました。

(2019.8.11)

Enrique MeseguerによるPixabayからの画像

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